
4月25日(土)、東京大学アニメーション研究会の主催で『勇者のクズ』原作者✕アニメ監督トークショーが実施されました。イベントには原作のロケット商会さん、漫画のナカシマ723(なつみ)さん、監督のウシロシンジさん、助監督の三橋和弥助さんが登壇しました。
イベントは原作小説、漫画、アニメの3パートに分かれたトークショーと、観客からの質疑応答で構成。ロケット商会さんは自身の創作活動について、「こういうお話が書きたいというパッケージから入る」と話し、殺し屋が主人公の某アメリカンコミックにインスパイアされた『勇者のクズ』の場合は、「(影響を受けた作品は)ドンドン仲間たちがコミュニティからいなくなっていくという悲しい構造なんですけど、仲間がいるところをもう少ししっかり描いてあげたいという気持ちから始まっています」と明かしました。
自らロケット商会さんにコミカライズのオファーを出すほど原作の大ファンだったナカシマ723さんは、その魅力について「文章が簡潔でカッコいい」「話が早くて読みやすい」の2点を挙げて、「(ヤシロが)城ヶ峰を『自分も逃げようかな』と思いながら舌打ちしつつも助けるヤシロの性格と、城ヶ峰が彼に対して自分もボロボロなのに『逃げろ』と武士みたいなことを言っちゃう。ベタベタな流れの中でキャラクター性が最小限に、素早く表現されているところに、エンタメとしての可能性を感じました」とコメント。
新装版として刊行されている小説の今後について、ロケット商会さんは「このお話は B 級のヒーローたちが活躍するという建てつけのお話なんですけれど、その中で一流のヒーローが対峙するような大事件に B 級ヒーローが関わるというのも面白いところだと思いますので、一流ヒーローですら太刀打ちできないような大きな事件に、ヤシロたちが関わっていくということも描いてみたいと思っています」と語りました。
漫画パートでは漫画独自のアレンジの話題となり、ナカシマ723さんはセーラがアーサー王の娘だと明かされるシーンを例にとって、「小説版では魔王の城に向かう道すがら、城ヶ峰とヤシロの会話の中で説明されているんですが、漫画で描こうとすると長くなってしまって、『いつ魔王と戦うんだ』ということになってしまう。また、セーラが偉い人の娘だという情報が先に入ってくると、ただ困っている人を助けに行く状況なのに、『じゃあ、助けたらいいことがあるんじゃないか』とか、余分な動機みたいなものを感じられてしまう可能性があるので、情報を出す順番を後回しにしたほうがいいだろうなと判断しました」と解説しました。
ロケット商会さんは、新装版では漫画のビジュアルに大いに影響を受けていると明かし、「特にセーラはもじゃもじゃの髪の毛が印象に残っているので、髪の毛を触る描写が結構増えました」と明かしました。
監督のウシロさんは、漫画版を映像的な作品になっていると話し、「漫画では上手・下手がリズムを作るためにバラバラであることのほうが多いんですけど、(漫画版では)基本的に上手・下手が守られていて、一見背景がなくてトンでいるに見えても、場所の位置関係とかが実はかなり正確」「いわゆるアニメーションの絵コンテに相当する表現が多かったので、この部分を活かしていこうと思いました」と語りました。
アニメパートでは、原作サイドのお二人が印象に残っているシーンの話題に。ナカシマ723さんは第3話のビジネスホテルで日常を過ごすヤシロの場面を挙げて、「画面手前から奥に向かって歩いて『よいしょ』と座るシーンは、最後のしゃがみきったところからちょっと弾んで止まる動きとかが、重さを感じる演技になっていていいですよね。私は作画に注目して見ている部分があって、こういうカットがあると嬉しくなります」と熱弁。
助監督の三橋さんは、ナカシマ723さんが話したカットはメインアニメーターの沢田正人さんが描いたシーンだと解説し、「難しいカットや戦うカットもたくさんある中で、『ここを割り振るんだ』と思った記憶はあるんですけど、先生がお褒めいただいて良かったです」とコメントしました。
ロケット商会さんは第7話のラストを挙げ、「特にジョーとヤシロの演技が素晴らしくて、エンディングテーマが流れずにずっと雨とサイレンの音が聴こえる演出も、『これ見たかった!』という気持ちになりましたね」と絶賛しました。
ウシロさんは、アニメオリジナルエピソードの内容は原作サイドのお二人のアイデアも取り入れられていると話し、ナカシマ723さんが「漫画オリジナルで城ヶ峰のおつかい回を入れたのと同じように、ヤシロと一対一にして印堂とセーラのキャラクター性を出すエピソードをやろうという話になって。また、その過程で出てきた《諸手の楔》卿と決着をつけておいたほうがいいだろうということになり、第8話のようなエピソードが入ってきました」と裏話を明かしました。
異色の展開となった第8話について、ウシロさんは「アフレコとかでもそうですが、ある程度キャラクターが把握できて楽しくやっていると、どうしても作品の世界観というものを忘れてしまうことがあったりするんです。『勇者のクズ』の世界観は決して良い面だけではない、彼らはこの世界の中で生きているんだと指し示すという意味では、自分としては全体のフィルムを作るうえで良い話数だったんじゃないかなと思っています」と語りました。
第2クールのオープニングアニメーションの演出も手掛けた三橋さんは、ナカシマ723さんとイメージをすり合わせたときに「(遊技機の)フィーバーで」と伝えられたと話し、「いろいろ調べていく中で、テレビシリーズの印象的なカットが入っていると喜ばれるかな、と思って最初のオープニングで個人的に印象に残ったカットをセルフオマージュしました」と制作秘話を披露しました。
観客から思い入れのあるキャラクターについて尋ねられると、ロケット商会さんは《神父》綾島聖とヤシロ、ナカシマ723さんはヤシロと城ヶ峰、ウシロさんは城ヶ峰、三橋さんはネフィリムと回答。三橋さんはネフィリムの3DCGモデル制作に苦労したとも語り、「(ネフィリムは)影とかを貼り込んで動かないようにしていて、ある種の模様みたいな感じで作っているんですけど、そうすることで2Dの作画の素材みたいな見え方になるんです。試行錯誤しながら作ったので、ネフィリムには思い入れのあるキャラクターです」と話しました。
指切りといったヤシロが使う技に関する質問では、ロケット商会さんは「もともと指切りや鍔迫り合い、バインドからの技の掛け合いみたいなことをやりたくてはじめていて。考えながら攻防するという意味だと、大技をかけるより実用的な技のほうがしっくりくる、小技で相手を制圧したほうが、意外性があるんですよね」と、こだわりを明かしました。ナカシマ723さんは漫画として描写するうえでは映像資料がほとんどなかったと話し、「指切りの鍔の引っ掛け方や、ヤシロが刃を沿わせて動く流れは、『たぶん、こうなるだろう』と考えて描いています」と執筆の苦労を語りました。
ウシロさんはエンターテインメントとして落とし込むために、深掘りしすぎないようにしたと話し、「原作からのこだわりがある一方で、アニメーターさんたちの中にはエンタメ的に映えるものをやろうと考える方もいるので、どちらの意見もお聞きして、一旦上がってきた絵コンテを先生方に見ていただくなどして、ポイントを押さえるという手法を取っています」とコメント。三橋さんは「例えば指を切るところをやるとして、血の飛び散り方で画面の派手さを出すとか、押さえるべきところを押さえたうえで『じゃあ、こうしようか』とアイデア出しをすることができて、アニメーターさんたちに恵まれたと思っています」と話しました。
オープニングテーマ、エンディングテーマに関する質問で、ウシロさんは「作品感を守ってほしい、こういうことをやってほしいというリクエストはある中で、アーティストさんの『この部分を見せたい』『このポイントが好きなんです』という部分を重視して、『その辺をピックアップしてやってもらってください』と伝えることが多いです」と、制作の裏話を披露しました。
最後の挨拶で三橋さんは、「テレビアニメは第2クールが始まって、展開的にもドンドン盛り上がっていきます」と話し、ウシロさんは「まだまだこの先も続けばいいですね!」とロケット商会さん、ナカシマ723さんに呼びかけて、「アニメも頑張っていきますので、今後ともよろしくお願いします」とコメント。
東京大学アニメーション研究会のOGでもあるナカシマ723さんは、「私は大学を卒業したあとすぐに実家のほうに戻ったこともあって、大学とつながっている感がそんなになかったのですが、今ここに戻ってきて、なんとなく故郷に錦を飾ったような気持ちになってありがたく思います」と感謝を伝えました。
ロケット商会さんも登壇者として招かれたことへの感謝を述べつつ、「皆さんのお話を伺えて、大変勉強になりました。ありがとうございます」と語り、万雷の拍手の中でイベントは幕を閉じました。